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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)174号 判決 1999年3月03日

ドイツ連邦共和国 74429 サルツバッハーローフェン

タルシュトラーセ 22-30

原告

コッチヤーープラスティック マシーネンバウ

ゲゼルシャフトミット ベシュレンクテル ハフツング

代表者

ベルント ハンセン

訴訟代理人弁護士

宇井正一

訴訟復代理人弁理士

中山恭介

アメリカ合衆国 60098 イリノイ州

ウッドストック ウエスト レイク ショアドライブ 2200

被告

オートマチツク リク

イツド

パツキツジング インコーポレーテツド

代表者

ジャーハード エイチ ワイラー

訴訟代理人弁理士

白浜吉治

訴訟復代理人弁理士

小林義孝

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成6年審判第15281号事件について、平成8年2月20日にした審決中、特許第1730290号発明の明細書の特許請求の範囲第1項に記載された発明についての審判請求は、成り立たないとした部分を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする

2  被告

主文1、2項と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

(1)  被告は、名称を「熱可塑性材料から成形された容器、その製造方法および装置」とする特許第1730290号発明(昭和57年8月25日出願(優先権主張 1981年8月26日アメリカ合衆国、1982年8月3日アメリカ合衆国)、平成4年3月30日出願公告、平成5年1月29日設定登録、以下「本件発明」という。)の特許権者である。

原告は、平成6年9月8日、被告を被請求人として、本件特許につき無効審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成6年審判第15281号事件として審理したうえ、平成8年2月20日、「特許第1730290号発明の明細書の特許請求の範囲第2項、第3項に記載された発明についての特許を無効とする。特許第1730290号発明の明細書の特許請求の範囲第1項に記載された発明についての審判請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年5月11日、原告に送達された。

(2)  被告は、平成8年8月9日、本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載を訂正する旨の訂正審判の請求をしたところ、特許庁は、同請求を平成8年審判第13419号事件として審理したうえ、平成9年5月2日、上記訂正を認める旨の審決(以下「訂正審決」といい、訂正審決による本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の訂正を「本件訂正」という。)をし、その謄本は、同月14日、被告に送達された。

2  訂正前の本件発明の特許請求の範囲第1項の記載

一端に開口部を画成する胴部と;

該胴部の開口部に設定されるインサート物と;

胴部と一体であって、容器を密閉するためにインサート物の少なくとも一部を包み込む封止構造とを備え、

該封止構造が、破断し易いウエブで一体に結合される第一部分と第二部分を有する壁を含み、前記破断し易いウエブがインサート物に当接して成る、熱可塑性材料から成形された容器。

3  訂正審決により訂正された後の本件発明の特許請求の範囲第1項の記載

一端に開口部を画成する胴部と;

該胴部の開口部に設定されるインサート物と;

胴部と一体であって、容器を密閉するためにインサート物の少なくとも一部を包み込む蓋構造とを備え、

該蓋構造が、破断し易いウェブで一体に結合される第一部分と第二部分を有する壁を含み、前記破断し易いウェブがインサート物に当接して成る、熱可塑性材料から成形された容器。

(注、下線部分が訂正個所である。)

4  審決の理由の要旨

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件発明の特許請求の範囲第1項に係る発明(以下「本件第1発明」という。)の要旨を訂正前の特許請求の範囲第1項記載のとおりと認定したうえで、本件第1発明が、本件発明の出願の優先権主張の日前に出願され、その出願後に出願公開された特願昭56-115014号出願(特開昭57-55806号)の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された容器に関する発明(以下、図面を含めた上記明細書を「先願明細書」といい、そこに記載された容器に関する発明を「先願発明」という。)と同一であるとは認め難く、請求人(原告)が主張する理由及び証拠方法によっては、これを無効とすることはできないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本件第1発明の要旨を訂正前の特許請求の範囲第1項記載のとおりと認定した点は、訂正審決の確定により特許請求の範囲第1項が前示のとおり訂正されたため、誤りに帰したことになる。先願明細書の先願発明に関する記載事項の認定(審決書8頁10行~9頁4行)、本件第1発明と先願発明との一致点の認定(同12頁8~20行)は認め、相違点の認定及び作用効果の相違についての判断(同12頁20行~13頁13行)は争う。

審決は、本件第1発明の認定を誤った結果、相違点の認定を誤り、本件第1発明と先願発明とが同一であるとは認められないとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  本件第1発明の誤認

審決は、「本件第1発明においてその特許請求の範囲第1項に記載された『(壁の第一部分と第二部分を一体に結合する)破断し易いウエブがインサート物に当接して成る』は、その技術的意義或いは意味するところが必ずしも明確ではない」(審決書9頁8~13行)としたうえで、破断し易いウエブにつき本件明細書の記載を参酌して(同頁13~14行)、本件明細書の記載は「容器の第4実施例乃至第8実施例の如く成形された破断し易いウエブの態様を『インサート物(の側壁)に当接』と表現して、一方の容器の第3実施例の如く成形された破断し易いウエブの態様とは区分している。」(同11頁9~13行)、「してみると、本件第1発明において『破断し易いウエブがインサート物に当接して成る』と特定した趣旨は、容器の第4実施例乃至第8実施例の如き態様を意図し、容器の第3実施例の如き態様を排除しているものと解される。したがって、本件第1発明における『インサート物に当接して成る』破断し易いウエブは、上側シール用型に設けられたウエブ成形装置を、インサート物より上位ではなく、インサート物の外側表面または側壁に対して押圧して、熱可塑性材料を圧縮することによって成形され、インサート物を包囲して位置するようになした破断し易いウエブを意図するものと認められる。」(同11頁13行~12頁5行)と認定したが、それは誤りである。

すなわち、「当接」との用語は、一般の国語辞典あるいは科学技術用語辞典には掲載されていないが、英語の「abutment」の翻訳語として、従前から特許明細書において多用されている、いわゆる特許用語の一つである。そして、一般的な英和辞典には、「abutment」という単語に対して、「隣接」、「接合」等の訳語が、また、動詞形の「abut」という単語に対しても、「隣接する」、「接触する」等の訳語が掲載されており、接触物、被接触物のいずれについても、その接触部位が特定されて用いられている訳ではない。

このことは、特許用語としての「当接」についても同様であって、従前、特許公報又は実用新案公報に掲載された明細書について調査してみるも、「当接」との用語は、単に「接触」あるいは「突き当てる」等の意味で用いられているにすぎず、特にその用語自体から接触部位が特定されているものではなく、また特定の接触部位にのみ用いられているものでもない。

したがって、本件明細書の特許請求の範囲第1項においても、「破断し易いウエブがインサート物に当接して成る」との記載の技術的意義は、破断し易いウエブが、特に接触部位を問わず、インサート物に接触していることを意味するものであり、したがって、インサート物の外側表面又は側壁に対して接触する態様のみならず、インサート物より上位で、その頂部(項面)に対し接触する場合も含むものとして、一義的に明確に理解できるものというべきである。そして、そうであれば、その「技術的意義或いは意味するところ」を認定するに当たって、発明の詳細な説明等の記載を参酌することが許される特段の事情がある場合には当たらず、特許請求の範囲の記載に基づいて、上記のように、インサート物より上位で、その頂部(頂面)に対し接触する場合も含むものと認定すべきであったのに、審決は、本件明細書の発明の詳細な説明や図面の記載に基づいて、インサート物に「当接して成る」破断し易いウエブを、「ウエブ成形装置を、インサート物より上位ではなく、インサート物の外側表面または側壁に対して押圧して、熱可塑性材料を圧縮することによって成形され、インサート物を包囲して位置するようになした」ものに限定されると認定したのであるから、該認定が誤りであることが明らかである。

なお、本件訂正によって、訂正前の明細書に記載された「容器の第1実施例」、「容器の第2実施例」、「容器の第3実施例」が、それぞれ「容器の第1製造例」、「容器の第2製造例」、「容器の第3製造例」と、「容器の第4実施例」、「容器の第5実施例」、「容器の第6実施例」、「容器の第7実施例」、「容器の第8実施例」が、それぞれ「容器の第1実施例」、「容器の第2実施例」、「容器の第3実施例」、「容器の第4実施例」、「容器の第5実施例」と訂正され、訂正前の容器の第1~第3実施例が、本件第1発明の実施例に当たらないこととされたが、本件明細書の特許請求の範囲第1項の「破断し易いウエブがインサート物に当接して成る」との記載につき、破断し易いウエブがインサート物の外側表面又は側壁に接触するものに限定した審決の認定が誤りであることに変わりはない。

2  取消事由(相違点の認定誤り)

審決は、上記1のとおり、本件明細書の技術事項を誤認し、これを前提として、「本件第1発明においては、破断し易いウエブが『インサート物に当接して』いるのに対して、先願明細書に記載された発明(注、先願発明)では、破断し易いウエブに相当する薄肉部はゴム栓の直上部に成形されており、破断し易いウエブを設けた位置において相違している。即ち、先願明細書に記載された発明における破断し易いウエブはゴム栓に当接しているものではなく、更に先願明細書には破断し易いウエブをゴム栓に当接して成形することを示唆する記載もない。そして本件第1発明は、破断し易いウエブをインサート物に当接してなる構成により、先願明細書に記載された発明とは別異の作用効果を奏するものと認められる。」(審決書12頁末行~13頁13行)と認定したが、それは誤りである。

本件明細書の特許請求の範囲第1項の「破断し易いウエブがインサート物に当接して成る」との記載は、上記1のとおり、破断し易いウエブが、インサート物より上位で、その頂部(頂面)に対し接触する場合も含むものである。そして、先願発明の「ゴム栓」、「薄肉部」は本件第1発明の「インサート物」、「破断し易いウエブ」にそれぞれ相当する(審決書12頁6~13行)から、「薄肉部はゴム栓の直上部に形成されてなる」(同9頁2~3行)先願発明は、「破断し易いウエブがインサート物に当接して成る」構成を備えるものである。

第4  被告の反論の要点

1  審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。

2  本件第1発明の誤認の主張について

本件訂正によつて、訂正前の明細書に記載された「容器の第1実施例」、「容器の第2実施例」、「容器の第3実施例」が、それぞれ「容器の第1製造例」、「容器の第25製造例」、「容器の第3製造例」と、「容器の第4実施例」、「容器の第5実施例」、「容器の第6実施例」、「容器の第7実施例」、「容器の第8実施例」が、それぞれ「容器の第1実施例」、「容器の第2実施例」、「容器の第3実施例」、「容器の第4実施例」、「容器の第5実施例」と訂正されたことは認める。

原告は、本件明細書の特許請求の範囲第1項の「破断し易いウエブがインサート物に当接して成る」との記載の技術的意義は一義的に明確に理解できるから、その技術的意義を認定するのに、発明の詳細な説明を参酌することが許される場合に当たらないとして、本件明細書の発明の詳細な説明や図面の記載を参酌したうえで、「インサート物に当接して成る」破断し易いウエブを、インサート物を包囲して位置するようになした破断し易いウエブを意図するものとした審決の認定が誤りであると主張するが、原告の主張自体にも示されているとおり、「当接」との用語は多義的なのであり、本件明細書の特許請求の範囲第1項の記載の技術的意義を明らかにするうえで、発明の詳細な説明や図面を参酌する必要が存するから、審決が、これらを参酌したうえで、本件第1発明の「インサート物に当接して成る」破断し易いウエブを上記のとおりとした認定に誤りはない。

第5  当裁判所の判断

1  本件第1発明の誤認の主張について

原告は、審決が、本件明細書の特許請求の範囲第1項の「破断し易いウエブがインサート物に当接して成る」との記載の技術的意義を、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載を参酌して認定したことに対し、該特許請求の範囲の記載の技術的意義は一義的に明確に理解できるから、発明の詳細な説明等の記載を参酌することが許される場合に当たらないと主張する。

ところで、特許又は実用新案に係る明細書において、「当接(する)」との用語が、通常、「接触(する)」、「突き当て(る)」、「押し当て(る)」等の意味で用いられており、また、その用語自体の意義において、当接する相手方部材の当接部位が特定される訳でないことは、当裁判所に顕著である。

そして、このことを前提として、前示本件訂正後の明細書の特許請求の範囲第1項の記載をみた場合に、その「一端に開口部を画成する胴部と;該胴部の開口部に設定されるインサート物と;胴部と一体であつて、容器を密閉するためにインサート物の少なくとも一部を包み込む蓋構造とを備え、該蓋構造が、破断し易いウェブで一体に結合される第一部分と第二部分を有する壁を含み、前記破断し易いウェブがインサート物に当接して成る、熱可塑性材料から成形された容器。」との記載において、インサート物は容器胴部の開口部に設定され、蓋構造は、胴部と一体であって、インサート物を包み込むことにより、インサート物とともに容器を密閉する技術的意義を有することが理解されるが、蓋構造に含まれる壁が破断し易いウェブで一体に結合される第一部分と第二部分を有することについては、容器の内容物を取り出すために、壁が破断し易いウェブの箇所で容易に破断され、第一部分と第二部分とに分離されることが想定されているものと一応見当がつくものの、ともに容器密閉部分を構成する蓋構造ないし壁とインサート物との関係につき「インサート物の少なくとも一部を包み込む蓋構造」、「破断し易いウェブがインサート物に当接して成る」としか規定されておらず、これのみでは、仮に、蓋構造に含まれる壁が破断し易いウェブの箇所で破断されて第一部分と第二部分とに分離されたとしても、分離後、蓋構造に残存する壁の部分とインサート物の態様が明らかにならないので、容器の内容物を取り出す方法、あるいは取り出すこと自体が可能であるかどうかが明確ではなく、翻って、容器の内容物を取り出すために壁が破断し易いウェブの箇所で第一部分と第二部分とに分離されることが想定されているのかどうか、すなわち、破断し易いウェブの技術的意義も、破断し易いウェブがインサート物に当接して成ることの技術的意義も、これを一義的に明確に理解することは不可能であるといわなければならない。

したがって、審決が、「本件第1発明においてその特許請求の範囲第1項に記載された『(壁の第一部分と第二部分を一体に結合する)破断し易いウエブがインサート物に当接して成る』は、その技術的意義或いは意味するところが必ずしも明確ではない」(審決書9頁8~13行)としたうえで、本件明細書の記載を参酌したことに誤りはないものというべきである。

しかして、本件訂正後の明細書(乙第1号証添附の訂正明細書)の発明の詳細な説明には、「平坦底の容器では、容器の頂部にプラグすなわちストッパを取付けることが望ましく、該プラグは、容器の熱可塑性壁の成形された延長部で、完全に、または部分的に封入すなわち密封され、該熱可塑性延長部は、ストッパへのアクセスすなわちストッパの除去を許容することによって所望の際における容器の開口を容易にする如く、破断し易いウェブが、インサート(挿入物)より上ではなく、インサートに向って形成され、インサートを包囲して位置し、ストッパまたはその他のインサートをその頂部に有する容器を堤供することが望ましいことを、本発明者は見出した。」(同訂正明細書5頁25行~6頁3行)、「或る用途では、多部品のインサートを有する容器を密封する方法及び装置を提供することが有利であり、この場合、容器の頂部が、多部品インサートの各部分に対して密閉され、少くとも1つのインサート部品の一部が容器を越えて突出し、容器の開口操作が可能なように露出される。該容器と、多部品インサート構造とでは、所望時に、シールの開口ないし破断を容易にする如く、少くとも1つのインサート部品のまわりに容器の材料の破断し易いウェブを設けることが望ましい。」(同6頁7~13行)との記載があるほか、「容器の第1実施例」として、「本明細書と、特許請求の範囲とに使用される『蓋構造』とは、容器胴部の上部・・・の上方へ延びインサート物(第1A図のストッパ60または第21図のノズル72Aの基部73Aと、係合されるキャップ75Aとの様な)に密封状に係合する熱可塑性材料・・・を意味する。従って、第20図、第21図に示される第1実施例では、該蓋構造58Aは、容器胴部52Aおよび容器上部56Aの両者と単一体であることが認められる。蓋構造58Aは、容器を密封閉鎖する如く複合インサート物の少くとも一部を収容し、或る異なる実施例について下記に説明される如く、蓋構造58Aは、複合インサート物品を完全に収容してもよい。第1実施例の容器50Aの蓋構造58Aは、別の新規な特徴を有している。特に、蓋構造58Aは、モールド成形される熱可塑性材料の破断し易いウェブすなわち低減化された厚さの領域94Aで一体に結合される第1すなわち下側部分59Aと、第2すなわち上側部分61Aとを有する周辺壁を備えている。破断し易いウェブ94Aは、下記で詳細に説明される如く、第1壁部分59Aと第2壁部分61Aとの間に破断し易いウエブ94Aを限定する環状ノッチないし低減化された厚さの領域を形成するように、蓋構造の熱可塑性材料が軟かい間に、複合インサート物品(キャップ75Aの外側面)に対して圧縮することで成形される。破断し易いウェブ94Aは、インサート物、特にキャップ75Aの側壁に当接する。」(同29頁16行~30頁4行)との記載、及び「容器の第1実施例を製造する方法と、装置」として、「第2すなわち上側のシール用型半体308A、310Aは、破断し易いウエブ94Aを成形する成形装置350Aをも備えている。該ウエブ成形装置350Aは、好ましくは、内方へ突出る環状部材ないし突起を有している。該内方の方向の突起350Aは、破断し易いウエブ94Aを限定する低減された厚さの領域を形成する如くインサート物の外側表面に向ってパリソンの一部を更に押圧する様にモールド成形面320Aに関連する破断し易いウエブの成形装置として作用する。」(同37頁19~24行)との記載があり、「容器の第2実施例として、「本発明容器の第2実施例は、第25図、第26図に示され、ここでは、容器は、全体として符号50Bで示されている。」(同39頁9~10行)、「容器50Bの第2実施例は、基部73Bのあるノズルと、キャップ75Bとを有するノズル組立体である補助構成要素を内部に装着して保持する上部蓋構造58Bを備えている。該ノズル組立体は、第20図~第24図までを引用して上記で説明された容器50Aの第1実施例のノズル組立体と同様である。容器50Bは、蓋構造58Bの上部がインサート物の上に完全に密封され、インサート物へのアクセスを許容する如く該密封された部分を破断可能な手段を有する点を除き、第20図、第21図に示される容器50Aとほぼ同一である。特に、蓋構造58Bの上部には、モールド成形された熱可塑性材料の破断し易いウエブないし低減された厚さの部分94Bで蓋構造58Bの下部に結合される中空のシェルないし包被キャップの構造92Bが設けられる。該ウエブ94Bは、下側すなわち第1の壁部分59Bを上側すなわち第2の壁部分61Bに結合し、破断し易いウエブ94Bの外側表面は、環状ノッチを限定することが認められる。」(同頁12~24行)との各記載があり、「容器の第3実施例」として、「本発明容器の第3実施例は、第27図、第28図に示され、該容器は、全体として符号50Cで示されている。」(同41頁25~26行)、「該蓋構造58Cは、第25図、第26図を引用して上記で説明された第2実施例の容器50Bの蓋構造58Bと著しく類似する。」(同42頁9~10行)、「蓋構造58Cは、モールド成形された熱可塑性材料の破断し易いウエブないし低減化された厚さの部分94Cで蓋構造58Cの下側部分の結合される中空のシェルないし包被キャップの構造92Cを備えている。破断し易いウエブ94Cは、壁の第1すなわち下側部分59Cと、壁の第2すなわち上側部分61Cとの間に形成される。該ウエブと、壁の部分とは、第25図、第26図に示される第2実施例の対応する要素と同一である。」(同頁15~20行)との各記載があり、「容器の第4実施例」として、「本発明容器の第4実施例は、第29図~第31図に示され、該容器は、全体として符号50Dで示されている。」(同43頁7~8行)、「蓋構造58Dは、第1部分すなわち下側部分59Dと、第2部分すなわち上側部分61Dとを有する周辺壁を備え、該第1部分59Dと、第2部分61Dとが、それ等の間を破断し易いウエブすなわち低減化された厚さの領域94Dで一体に結合されるものとして、更に明確に規定されてもよい。破断し易いウエブ94Dは、インサート物、特に、ノズル組立体の排出導管72Dの側壁に当接する。」(同44頁2~7行)との各記載があり、「容器の第5実施例」として、「符号50Eで全体を示される容器の第5実施例が、第32図、第33図に示される。」(同49頁19~20行)、「容器50Eは、第29図、第30図に示される容器50Dの第4実施例に関する上述の蓋構造58Dに機能的に類似する蓋構造58Eを備えている。・・・蓋構造58Eは、排出導管71Eの側部に係合する如く成形されたパリソンの部分を有し特別な図示の形状に塑造される固化されたパリソンを備えている。蓋構造58Eの上部は、第1キャップ120Eから離れる一体のカバーないし包被ギヤツプの構造92Eで排出導管71Eの上を完全に密封される。従って、蓋構造58Eは、排出導管71Eと、ギヤツプ120Eとへのアクセスを許容する如く破断されねばならない。この目的のため、包被キャップ構造92Eは、モールド成形される熱可塑性材料の破断し易いウエブないし低減化された厚さの部分94Eで蓋構造58Eの下側部分に結合される。ウエブ94Eは、壁の下側すなわち第1部分59Eを壁の上側すなわち第2部分61Eに結合し、破断し易いウエブ94Eの外側表面は、環状ノッチを限定することが認められる。」(同50頁8~20行)との各記載がある。

これらの各記載と、図面第20、第21図(第1実施例)、第25、第26図(第2実施例)、第27、第28図(第3実施例)、第29~第31図(第4実施例)、第32、第33図(第5実施例)の図示とによれば、本件訂正後の明細書に記載された容器の第1~第5実施例において、蓋構造は、インサート物の下方の一部を包み込み、あるいはインサート物の上部で完全にこれを覆って、インサート物とともに容器を密封していること、破断し易いウェブは、インサート物を除去して容器を開口するために、蓋構造の一部を分離除去することを容易ならしめるべく設けられるものであり、蓋構造がインサート物の下方の一部を包み込む場合においても、インサート物の上部で完全にこれを覆う場合においても、該インサート物の外側表面又は側壁の位置で、インサート物に接触するものであって、内方へ突き出る環状部材ないし突起を有するウェブ成形装置をもって、インサート物の外側表面に向ってパリソンの一部を更に押圧するようにして、低減された厚さの領域を形成することにより、これを成形するものであることが認められる。

なお、本件訂正後の明細書(乙第1号証添附の訂正明細書)の発明の詳細な説明には、「容器の第3製造例」についても「破断し易いウェブ」に関する記載がある(同号証19頁3行~21頁7行)が、本件訂正によって、訂正前の明細書に記載された「容器の第1実施例」、「容器の第2実施例」、「容器の第3実施例」が、それぞれ「容器の第1製造例」、「容器の第2製造例」、「容器の第3製造例」と、「容器の第4実施例」、「容器の第5実施例」、「容器の第6実施例」、「容器の第7実施例」、「容器の第8実施例」が、それぞれ「容器の第1実施例」、「容器の第2実施例」、「容器の第3実施例」、「容器の第4実施例」、「容器の第5実施例」と訂正されたことは、当事者間に争いがなく、本件訂正に係る訂正審判請求書(乙第1号証)の「請求の原因」中に、該訂正に関して、特許請求の範囲第1項が、訂正前の容器の第4実施例以降の実施例に対応する請求項であり、訂正前の容器の第1~第3実施例が実施例に該当しないこととなるので、その旨を明確にするために該訂正をする旨が記載されている(同号証12頁16~26行)ことに照らして、容器の第3製造例は、本件第1発明の実施例に該当しないものと認められるので、前示容器の第3製造例に係る記載は、特許請求の範囲第1項の「破断し易いウエブがインサート物に当接して成る」との記載の技術的意義を明確にするために参酌すべき記載に当たらない。

そうすると、審決が、本件訂正前の明細書の記載に基づいて、「容器の第4実施例乃至第8実施例(注、本件訂正後の容器の第1~第5実施例)の如く成形された破断し易いウエブの態様を『インサート物(の側壁)に当接』と表現して、一方の容器の第3実施例(注、本件訂正後の容器の第3製造例)の如く成形された破断し易いウエブの態様とは区別している。してみると、本件第1発明において『破断し易いウエブがインサート物に当接して成る』と特定した趣旨は、容器の第4実施例乃至第8実施例の如き態様を意図し、容器の第3実施例の如き態様を排除しているものと解される。」(審決書11頁9~17行)と判断したことは結果において誤りがなく、また、「本件第1発明における『インサート物に当接して成る』破断し易いウエブは、上側シール用型に設けられたウエブ成形装置を、インサート物より上位ではなく、インサート物の外側表面または側壁に対して押圧して、熱可塑性材料を圧縮することによって成形され、インサート物を包囲して位置するようになした破断し易いウエブを意図するものと認められる。」(同11頁18行~12頁5行)と認定したことについても誤りがない。

2  取消事由(相違点の認定誤り)について

先願発明が「一端に開口部を画成する胴部と、胴部の開口部に装着設定されたゴム栓と、胴体と一体であって、容器を密閉するためにゴム栓の少なくとも一部を包み込む密閉部とを備え、この密閉部が薄肉部で一体に結合された上側部分と下側部分からなり、薄肉部はゴム栓の直上部に形成されてなるヒートシール性プラスチックから成形された容器」(審決書8頁17行~9頁4行)であり、先願発明の「ゴム栓」、「薄肉部」が本件第1発明の「インサート物」、「破断し易いウエブ」にそれぞれ相当する(同12頁6~13行)ことは、当事者間に争いがない。

また、先願明細書(甲第1号証)に、該薄肉部をゴム栓の外側表面又は側壁の位置で、これに接触するように形成することについての記載又は示唆は見当たらない。

そうすると、審決が、前示1の「本件第1発明における『インサート物に当接して成る』破断し易いウエブは、上側シール用型に設けられたウエブ成形装置を、インサート物より上位ではなく、インサート物の外側表面または側壁に対して押圧して、熱可塑性材料を圧縮することによって成形され、インサート物を包囲して位置するようになした破断し易いウエブを意図するものと認められる」との判断を前提として、「本件第1発明においては、破断し易いウエブが『インサート物に当接して』いるのに対して、先願明細書に記載された発明(注、先願発明)では、破断し易いウエブに相当する薄肉部はゴム栓の直上部に成形されており、破断し易いウエブを設けた位置において相違している。即ち、先願明細書に記載された発明における破断し易いウエブはゴム栓に当接しているものではなく、更に先願明細書には破断し易いウエブをゴム栓に当接して成形することを示唆する記載もない。」(審決書12頁末行~13頁9行))とした認定に誤りはなく、また、本件訂正後の明細書の前示記載に照らして、「そして本件第1発明は、破断し易いウエブをインサート物に当接してなる構成により、先願明細書に記載された発明とは別異の作用効果を奏するものと認められる。」(同13頁9~13行)との認定にも誤りはない。

なお、本件訂正による本件明細書の特許請求の範囲第1項の記載の訂正は、上位概念である「封止構造」を下位概念である「蓋構造」と訂正して、特許請求の範囲を限縮したものであるから、これによって、本件第1発明が先願発明と同一でないとした審決の結論に影響が及ぶことのないことは明らかである。

3  以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための付加期間の指定につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成6年審判第15281号

審決

ドイツ連邦共和国、74429 サルツバッハーローフェン タルシュトラーセ 22-30

請求人 コッチャーープラスティック マシーネンバウ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング

東京都港区虎ノ門3丁目5番1号 虎ノ門37森ビル 青和特許法律事務所

代理人弁理士 石田敬

東京都港区虎ノ門3丁目5番1号 虎ノ門37森ビル 青和特許法律事務所

代理人弁理士 辻本重喜

東京都港区虎ノ門3丁目5番1号 虎ノ門37森ビル 青和特許法律事務所

代理人弁理士 戸田利雄

東京都港区虎ノ門3丁目5番1号 虎ノ門37森ビル 青和特許法律事務所

代理人弁理士 西山雅也

アメリカ合衆国 60098 イリノイ州 ウッドストック、ウェスト レイクショア ドライブ 2200

被請求人 オートマチック リクイッド パツキツジング インコーポレーテッド

東京都港区新橋3丁目1番10号 石井ビル 白浜国際特許事務所

代理人弁理士 白浜吉治

上記当事者間の特許第1730290号発明「熱可塑性材料から成形された容器、その製造方法および装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

特許第1730290号発明の明細書の特許請求の範囲第2項、第3項に記載された発明についての特許を無効とする。

特許第1730290号発明の明細書の特許請求の範囲第1項に記載された発明についての審判請求は、成り立たない。

審判費用は、その3分の1を請求人の負担とし、3分の2を被請求人の負担とする。

理由

Ⅰ.本件特許第1730290号発明は、昭和57年8月25日(優先権主張:1981年8月26日、米国;1982年8月3日、米国)に昭和62年法律第27号による改正前の特許法第38条ただし書きの規定に基づいて出願されて、平成4年3月30日に出願公告(特公平4-19100号)され、その後の平成5年1月29日にその特許の設定の登録がなされたものであって、その各発明の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1項、第2項及び第3項にそれぞれ記載されたとおりの次のものにあると認める。

「1.一端に開口部を画成する胴部と;

該胴部の開口部に設定されたインサート物と;

胴体と一体であって、容器を密閉するためにインサート物の少なくとも一部を包み込む封止構造とを備え、

該封止構造が、破断し易いウエブで一体に結合される第一部分と第二部分を有する壁を含み、前記破断し易いウエブがインサート物に当接して成る、熱可塑性材料から成形された容器。」

「2.閉成された主型内に設定され、垂直方向に延びる細長い中空チューブ形状を有する押出された長さのパリソンから直立客器を成形する方法であって、

主型組立体内のパリソンから容器胴部が成形される際に、容器をモールド成形して充填を行うための吹込み・充填用組立体の挿入に適合する閉成された主型よりも上にあるパリソンの残部長さ部分の頂部に開口を維持し、

その後、前記パリソンの頂部開口から前記吹込み・充填用組立体を移動させ、

次いで、モールド成形され充填された容器の頂部を密封する方法において、

前記容器胴部が成形された後、<1>少なくとも―時的に、前記パリソンの頂部開口を維持し、かつ<2>容器を密封するに先立って、モールド成形された容器胴部におけるパリシンの頂部開口、すなわち閉成された主型よりも上にあるパリソンの残部長さ部分におけるパリソンの頂部開口を介して二次操作を実施することから成る付加的手順を含む容器製造方法。」

「3.垂直方向に延びる細長い中空チューブ形状を有する押出し長さのパリソンから容器を成形するための装置であって、

<1>頂部開口を有する容器胴部を、最初に成形するための第一型すなわち主型装置と、<2>第一型よりも上で上方へ延びるパリソンの一部長さ部分におけるパリソン頂部に開口を維持するための把持装置と、<3>モールド成形された容器の頂部を密封するための第二型すなわちシール用型装置とを有する前記容器成形装置において、

モールド成形された容器胴部におけるパリソンの頂部開口、すなわち上方へ延びる部分におけるパリソンの頂部開口を介して二次操作を行うための二次操作装置を具備する容器製造装置。」

(以下、これらの特許請求の範囲第1項、第2項及び第3項に記載された各発明をそれぞれ「本件第1発明」、「本件第2発明」及び「本件第3発明」という。またこれらを総称して単に「本件発明」という。)

Ⅱ.これに対し、請求人は、本件特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める請求をなし、その理由として、本件発明は、本件発明の出願の優先権主張の日前に出願され、その出願後に出願公開された特願昭56-115014号(特開昭57-55806号公報参照)の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同―であって、本件発明は、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものであり、本件特許は、特許法第123条第1項の規定により無効とされるべきである旨主張し、証拠方法として、甲第1号証(特開昭57-55806号公報)、甲第2号証(特公平4-51404号公報)及び甲第3号証(特公平4-19100号公報)を提出している。

一方、被請求人は、本件発明、特に本件第1発明、は請求人の提出する甲第1号証に記載された発明とは別異のものであり、特有の効果を奏するものであるから、請求人の主張には根拠がない趣旨の答弁を行っている。

Ⅲ.そして、本件発明の出願の優先権主張の日前に出願され、その出願後に出願公開された特願昭56-115014号出願(特開昭57-55806号)の願書に最初に添付された明細書又は図面(甲第1号証として提出された特開昭57-55806号公報参照)(以下、単に「先願明細書」という。)には、押出機から供給されて垂直方向に延びるヒートシール性プラスチック管から容器を成形するための成形製造装置であって、頂部開口を有する容器胴部を最初に成形するための水平方向に開閉可能な一対の下部割型と、一対の下部割型の上で上方に延びるヒートシール性プラスチック管の一部分を吸引保持してプラスチック管頂部に開口を維持するための一対の真空保持フランジと、吹込み成形された容器の頂部を密閉するための水平方向に開閉可能な一対の上部割型であって、上部割型内に割型とは別個に独自に作動しうるように設けられた側部締付具を備えた上部割型と、下部割型と上部割型からなる製造型の上方に上下移動可能に設けられ、下部割型内のヒートシール性プラスチック管を吹込み成形して容器胴体を成形しかつ充填物を充填する吹込み・充填ノズルと、ゴム栓受取り部位から装着部位ヘゴム栓を運搬すべく移動可能に設けられ、ゴム栓を吹込み成形後の容器胴体上部ヘプラスチック管の頂部開口部を介して装着するゴム栓保持部材を備えた容器成形製造装置が記載され、更にヒートシール性プラスチック管を吹込み成形によって容器とし、容器の既に成形された部分に充填し、容器の密閉時に容器上部を成形する操作を一工程で行なうことからなる充填されかつ密閉された容器の製造法であって、押出機から垂直方向下方に押出されたヒートシール性プラスチック管を一対の真空保持フランジと一対の下部割型によって受け止め、真空保持フランジによってプラスチック管を保持しながら、吹込み・充填ノズルを用いて、プラスチック管の下部割型内に位置する部分を吹込み成形して容器胴体となし、かつ充填物を充填し、充填の後に吹込み・充填ノズルをプラスチック管の頂部開口から移動させ、ゴム栓受取り部位からゴム栓を保持したゴム栓保持部材を移動させて、プラスチック管の頂部開口部を介して吹込み成形後の容器胴体上部ヘゴム栓を装着し、その後に一対の側部締付具によりプラスチック管にゴム栓の周囲及びその上部を一部分被覆せしめて、ゴム栓領域の成形を行い、そして上部割型により容器頭部にブレークストッパーを形成して容器頭部を完全に密閉するようになした充填されかつ密閉された容器の製造法が記載されており、そして更に、上部割型によってゴム栓の上方に位置する容器の頭部を完全に密閉するに際し、上部割型の下端部に設けた先端が鋭角状に尖った部分がゴム栓の直上部のプラスチック管の肉厚を減少させて薄肉部となし、容器成形後のブレークストッパーの破断をこの薄肉部で容易になし得るようにしているものと認められるから、一端に開口部を画成する胴部と、胴部の開口部に装着設定されたゴム栓と、胴体と一体であって、容器を密閉するためにゴム栓の少なくとも一部を包み込む密閉部とを備え、この密封部が薄肉部で一体に結合された上側部分と下側部分からなり、薄肉部はゴム栓の直上部に形成されてなるヒートシール性プラスチックから成形された容器が記載されている。

Ⅳ.そこで、本件発明と先願明細書に記載された発明とを比較検討する。

1.本件第1発明と先願明細書に記載された容器に関する発明とを対比するに、本件第1発明においてその特許請求の範囲第1項に記載された「(壁の第一部分と第二部分を一体に結合する)破断し易いウエブがインサート物に当接して成る」は、その技術的意義或いは意味するところが必ずしも明確でない。そこで、破断し易いウエブについて、本件発明の明細書を参酌すると、「………容器の開口を容易にする如く、ストッパの上位に破断し易いウエブが形成され得る。 また、破断し易いウエブが、インサート(挿入物)より上ではなく、インサートに向って形成され、インサートを包囲して位置し ……………容器を提供することが望ましい………」(甲第3号証、第3頁第6欄26行乃至34行)、「………シールの開口ないし破断を容易にする如く、少なくとも1つのインサート部品のまわりに容器の材料の破断し易いウエブを設けることが望ましい。」(同、第4頁第7欄3行乃至6行)、「………インサート物(例えば、ストッパ、ノズル等)を設けた後、所望時に、インサート物へのアクセス、またはインサート物の除去の得られる様に、容器の材料の封入部分が容易に破断可能な如く、容器材料による部分的または完全な、インサート物の封入を行なってもよい。この目的のため、インサート物品に向って直接、またはインサート物品より上位で、該封入材料に破断し易いウエブを設け得る。」(同、第4頁第7欄17行乃至23行)等記載され、更に本件発明の明細書に記載された実施例において、容器の実施例としては第1実施例乃至第8実施例が記載されている。してみると、破断し易いウエブに関しては、容器の第3実施例(第12図乃至第14図)の如くインサート物の上位或いは上側周囲に設けられた破断し易いウエブの態様、及び容器の第4実施例乃至第8実施例(第20図乃至第33図)の如くインサート物の外側側壁部に設けられた破断し易いウエブの態様の2態様が記載されており(なお、容器の第1実施例及び第2実施例においては蓋構造に破断し易いウエブを有しておらず、これらは本件第1発明の実施例といえるものではない。)、そしてこれらの2態様ではその成形手法が相違している。ところで、容器の第4実施例乃至第8実施例の如く成形された破断し易いウエブの態様を「インサート物(の側壁)に当接」と表現して、一方の容器の第3実施例の如く成形された破断し易いウエブの態様とは区別している。してみると、本件第1発明において「破断し易いウエブがインサート物に当接して成る」と特定した趣旨は、容器の第4実施例乃至第8実施例の如き態様を意図し、容器の第3実施例の如き態様を排除しているものと解される。したがって、本件第1発明における「インサート物に当接して成る」破断し易いウエブは、上側シール用型に設けられたウエブ成形装置を、インサート物より上位ではなく、インサート物の外側表面または側壁に対して押圧して、熱可塑性材料を圧縮することによって成形され、インサート物を包囲して位置するようになした破断し易いウエブを意図するものと認められる。

そこで、本件第1発明と先願明細書に記載された容器に関する発明とを対比するに、先願明細書に記載された容器における「ヒートシール性プラスチック」、「ゴム栓」、「密閉部」及び「薄肉部」は、それらの機能及び形状、構造からみて、本件第1発明の「熱可塑性材料」、「インサート物」、「封止構造」及び「破断し易いウエブ」にそれぞれ相当し、両発明は、「一端に開口部を画成する胴部と、該胴部の開口部に設定されたインサート物と、胴体と一体であって、容器を密閉するためにインサート物の少なくとも一部を包み込む封止構造とを備え、該封止構造が、破断し易いウエブで一体に結合される第一部分と第二部分を有する壁を含む熱可塑性材料から成形された容器」である点で一致するとしても、本件第1発明においては、破断し易いウエブが「インサート物に当接して」いるのに対して、先願明細書に記載された発明では、破断し易いウエブに相当する薄肉部はゴム栓の直上部に成形されており、破断し易いウエブを設けた位置において相違している。即ち、先願明細書に記載された発明における破断し易いウエブはゴム栓に当接しているものではなく、更に先願明細書には破断し易いウエブをゴム栓に当接して成形することを示唆する記載もない。そして本件第1発明は、破断し易いウエブをインサート物に当接してなる構成により、先願明細書に記載された発明とは別異の作用効果を奏するものと認められる。

したがって、本件第1発明が、先願明細書に記載された容器に関する発明と同一であるとは認め難く、本件第1発明についての請求人の主張は採用できない。

2.次に、本件第2発明と先願明細書に記載された容器製造法に関する発明とを対比するに、先願明細書に記載された容器製造法においては、押出機から供給されたヒートシール性プラスチック管の下部割型内に位置する部分を吹込み・充填ノズルによって吹込み成形して容器胴体を成形しかつ充填物を充填した後に、ゴム栓保持部材によって、ゴム栓をプラスチック管の頂部開口部を介して容器胴体上部へ装着し、そして一対の上部割型により、容器の頭部にブレークストッパーを形成して容器を密閉しているところであって、先願明細書に記載された容器製造法における「一対の下部割型」、「押出機から供給されたヒートシール性プラスチック管」、「吹込み・充填ノズル」及び「吹込み成形」は、それらの機能並びに形状、構造からみて、本件第2発明における「主型」、「中空チューブ形状を有する押出された長さのパリソン」、「吹込み・充填用組立体」及び「モールド成形」にそれぞれ相当し、更に、先願明細書に記載された容器製造法におけるゴム栓保持部材によるプラスチック管の頂部開口部を介してのゴム栓の容器胴体上部へ装着は、容器胴体の成形後であって、プラスチック管の頂部開口部を真空保持フランジによって開口を維持した状態で、かつ容器を密封するに先だって行われており、これは、本件第2発明における「容器胴部が成形された後、<1>少なくとも一時的に、パリソンの頂部開口を維持し、かつ<2>容器を密封するに先立って、モールド成形された容器胴部におけるパリソンの頂部開口を介して二次操作を実施することから成る付加的手順」に相当するから、両発明は、「閉成された主型内に設定され、垂直方向に延びる細長い中空チューブ形状を有する押出された長さのパリソンから容器を成形する方法であって、主型組立体内のパリソンから容器胴部が成形される際に、容器をモールド成形して充填を行うための吹込み・充填用組立体の挿入に適合する閉成された主型よりも上にあるパリソンの残部長さ部分の頂部に開口を維持し、その後、パリソンの頂部開口から吹込み・充填用組立体を移動させ、次いで、モールド成形され充填された容器の頂部を密封する方法において、容器胴部が成形された後、<1>少なくとも一時的に、パリソンの頂部開口を維持し、かつ<2>容器を密封するに先立って、モールド成形された容器胴部におけるパリソンの頂部開口、すなわち閉成された主型よりも上にあるパリソンの残部長さ部分におけるパリソンの頂部開口を介して二次操作を実施することから成る付加的手順を含む容器製造方法」である点で一致し、パリソンから成形する容器が、本件第2発明においては、直立容器であるのに対して、先願明細書に記載された発明においては、直立容器について格別言及されておらず、先願明細書の図面には底部に平坦な略三角形状の部材を有する容器が図示されている点で一応相違している。

ところで、本件発明の明細書においては、成形され充填された容器は、型組立体から取り出された状態では、その成形容器の底部には平坦なバリが付設されており、このバリはその後にバリ取り装置等で除去されて、直立容器を形成しているところであるが、先願明細書の図面に図示された容器は、底部に平坦な略三角形状の部材を有している。しかしながら、先願明細書に記載された発明における容器においても、この略三角形状の部材を付設した状態で使用するか、或いは(本件第2発明のように)成形の最終段階において除去して使用するかは、成形容器のその後の使用形態に応じて、当業者が適宜設定しうる程度の事項であり、前記相違点は当業者が必要に応じて適宜取捨選択しうる単なる設計的事項にすぎない。よって、本件第2発明は先願明細書に記載された容器製造法に関する発明と実質的に同一と認められ、しかも本件発明の発明者が先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また本件発明の出願時において、その出願人が前記先願の出願人と同一であるとも認められない。

したがって、本件第2発明は、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものであるから、本件第2発明についての特許は、同法第123条第1項の規定により、これを無効とすべきものである。

3.そして、本件第3発明と先願明細書に記載された容器成形製造装置に関する発明とを対比するに、先願明細書に記載された容器成形製造装置における「押出機から供給されるヒートシール性プラスチック管」、「吹込み成形」、「一対の下部割型」、「一対の真空保持フランジ」及び「一対の上部割型」は、それらの機能並びに形状、構造からみて、本件第3発明における「細長い中空チューブ形状を有する押出し長さのパリソン」、「モールド成形」、「第一型すなわち主型装置」、「把持装置」及び「第二型すなわちシール用型装置」に相当し、また、先願明細書に記載された容器成形製造装置においては、下部割型内に位置するヒートシール性プラスチック管を吹込み・充填ノズルによって吹込み成形して容器胴体を成形しかつ充填物を充填した後に、ゴム栓保持部材によって、ゴム栓をプラスチック管の頂部開口部を介して容器胴体上部へ装着し、そして一対の上部割型により、容器の頭部にブレークストッパーを形成して容器を密閉しているところであり、これらのゴム栓保持部材や上部割型が、本件第3発明における「モールド成形された容器胴部におけるパリソンの頂部開口、すなわち上方へ延びる部分におけるパリソンの頂部開口を介して二次操作を行うための二次操作装置」に相当することは明らかである。してみると、先願明細書に記載された容器成形製造装置は、本件第3発明の構成要件を全て具備しており、本件第3発明は、先願明細書に記載された容器成形製造装置に関する発明と同一である。しかも両者の発明者及び出願人は、前記したように、同一でないことは明白である。

したがって、本件第3発明は、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものであるから、本件第3発明についての特許は、同法第123条第1項の規定により、これを無効とすべきものである。

Ⅴ.以上のとおりであるから、本件第2発明及び本件第3発明についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項の規定により、これを無効とすべきものであり、他方、本件第1発明についての特許は、請求人が主張する理由及び証拠方法によっては、これを無効とすることはできない。

よって、結論のとおり審決する。

平成8年2月20日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

請求人 被請求人 のため出訴期間として90日を附加する。

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